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「日韓合意」は解決ではない!

 1991年8月14日、金学順さんの勇気ある名のり出によって、半世紀もの沈黙を超えて被害者たちがアジア各地で一斉に声をあげ、日本の戦時性暴力の責任を問いました。そのことは、旧ユーゴ紛争をはじめ、世界の紛争下で性暴力にさらされてきた女性たちに勇気を与え、軍隊による性暴力の実態が暴かれる契機となりました。私たちは2013年よりこの日を戦時性暴力の根絶をめざす「日本軍『慰安婦』メモリアル・デー」と定め、国連記念日とするよう、アクションを起こしてきました。4年目となる今年、「慰安婦」問題をめぐってこれまでになく厳しい局面を迎えています。

■「日韓合意」で日本の 責任は果たされない

 昨年12月28日、日韓外相会談に続いて記者発表された日韓「合意」は、「お詫びと反省」「(内閣総理大臣として)責任を認める」という文言、あるいは国庫からの10億円拠出という内容で、日本政府が被害者の要求を受け入れたかのように印象付けました。日本国内では支持・歓迎の声が拡がり、アメリカ政府や潘基文国連事務総長、海外メディアからも高い評価を受けました。
 しかし、「合意」は韓国政府に大幅な譲歩を迫る「第二の日韓条約」(1965年)ともいうべき問題を内包していました。「お詫びと反省」の言葉が安倍首相から朴大統領に電話で伝えられましたが、待ち続ける被害者に届かない謝罪は謝罪とは言えません。また、「合意」はお詫びや反省、責任を認めるという言葉はあっても、責任の中身となる歴史的事実には踏み込んでいません。河野談話の一部を引用、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」とあるのみです。国庫から拠出される10億円についても「日韓条約で解決済み」であり、賠償的な意味を持つものではないことを明言しています。そもそも、10億円は今後被害者の名誉と尊厳を回復するための財団を韓国側がつくり、そこに拠出されることになっており、あくまで事業主体は韓国側です。本来加害国である日本が行うべき被害者の名誉と尊厳回復措置を被害国である韓国側に丸投げしたといわざるを得ません。加えて、「合意」で韓国政府が被害者や支援団体との事前協議もなく「平和の碑」(少女像)の移転について述べたことに批判と不信感が広がったのは当然のことです。
 極めつけは「最終的・不可逆的解決」という言葉です。被害当事者の頭越しに政府間で最終的解決を約束するなど、前代未聞の暴挙です。そればかりか、用意周到に今後国際社会で非難・批判を行わないことまで約束させたのです。

■態度を一変させた韓国政府とアメリカの存在

 これまで韓国政府は2011年の憲法裁判所決定に基づき、「慰安婦」問題は国家権力による反人道的不法行為であり、日韓条約で解決したとは言えないという立場に立って日本政府に「被害者と国民が納得できる解決」を求めてきました。そのため「日韓条約で解決済み」とする日本政府との間で対立してきました。ここにきて韓国政府が違憲状態に陥りながらも政治的妥結に至った背景に一体何があったのでしょうか。そこに日米韓安全保障協力を一刻も早く前に押し進めたいというアメリカの後押しと、「慰安婦」問題の本質を理解できず、対米追従と保身に走った朴槿恵政権の存在がありました。
 安倍政権は、韓国政府はいつも「ゴールを動かす」「蒸し返す」と非難を繰り返して韓国側の譲歩を迫り、他方、朴政権はこれまでの政府の立場を翻し、被害者や国民の声を無視して「合意」を受け入れたのです。そして、直後から起こった被害者および支援団体、学生、市民らからの抗議と怒りの声に対し、「苦労して解決した慰安婦問題を再び原点に戻せば、この問題は24年前に戻る」と、被害者と支援者の四半世紀におよぶ闘いの歩みを無視する暴言をためらいませんでした。
 「合意」以降、アメリカの思惑通り、対中国、北朝鮮を念頭に日米韓軍事同盟体制は飛躍的に強化され、大規模な軍事演習が度々行われ、事あるごとに電話会談を通して緊密な連携が図られています。在韓米軍への大量殺傷兵器サードの配備が決定されるなど、軍事的連携はとどまるところを知りません。まさに、被害者の平和への願い、再び私たちのような犠牲者を生まないでという祈りを踏みにじる事態が「合意」以降急速に進んでいます。

■歴史否定を続ける日本政府に対する国際社会の声

 2月15日よりジュネーブで開催された国連女性差別撤廃委員会での日本審査における杉山外務審議官(当時)の発言は驚くべきものでした。冒頭で、「日韓合意」をもって「慰安婦」問題は「最終的かつ不可逆的に解決されることが確認された」として、「21世紀こそ女性の人権が傷つけられることのない世紀とするためリードしていく」と語りました。
 これに対し、オーストラリアのホフマイヤー委員から日韓「合意」について、被害者中心のアプローチが今後どのようになされるのか、また、他国の被害者に対する国際人権法上の責務について質問がありました。続けて委員は、これまでに他の国連機関より出された補償、加害者の訴追、歴史教育などの勧告について、政府として今後のどのように実施していくのかについても質問しました。これに対する杉山氏の回答は「政府が発見した資料の中に軍や官憲による強制連行を確認できるものはなかった」と、これまでの政府の立場を述べ、朝日新聞による吉田証言をはじめとする誤った報道が国際的な誤解を招いたと弁明、政府としては「国民基金」などによって誠実に取り組んできたことを説明するという、質問を無視した的外れなものでした。しかも他国の被害者については、サンフランシスコ平和条約や二国間条約などで法的に解決済みという立場をあらためて示したのです。
 中国のゾウ委員がこれに反論、「慰安婦」問題の歴史を否定するのなら、なぜ「日韓合意」をする必要があったのかと、その矛盾を突き、「慰安婦」被害者一人ひとりに書面で謝罪する用意はあるのか、国家としての法的責任を認め、被害回復を提供する用意はあるのかと質しました。杉山氏は質問には答えず、指摘はいずれも日本政府として受け入れられないし、事実に反する発言だと強く反論しました。政府として「お詫びと反省」「責任を痛感」と述べることで「日韓合意」にこぎつけながら、相変わらず歴史否定発言を繰り返し、問題の所在がどこにあるのかも理解できない日本政府に対し、当然ながら厳しい勧告が出されました。
 3月7日、委員会は「慰安婦」問題と関連、「指導者や政治家」が元「慰安婦」を傷つけるような発言をしないよう勧告。「日韓合意」について「被害者を中心に据えたアプローチを採用していない」として、「合意」を履行する際、被害者の立場に正当な考慮を払い、「彼女たちの真実・正義・賠償への権利を確保する」よう勧告しました。また、「効果的な救済の不足が継続している状況では侵害が継続している」と、「慰安婦」問題が現在進行形の人権侵害であるとの見解を示し、被害者への賠償や公式謝罪を含む「完全かつ効果的な賠償」を行うよう求めました。
 教育や人権侵害の防止、被害回復措置など、何ひとつ実行しようとしないばかりか、歴史的事実さえ否定する日本政府の姿勢こそが被害者を傷つけており、国際人権基準と大きくかけ離れていることが如実に示されたと言えます。同日、委員会を代表して記者会見したジャハン委員(バングラディッシュ)は「日韓合意」に言及し、「われわれの最終見解は(「慰安婦」問題を)まだ解決されていない問題だと見なしている」と発言。10日に国連人権理事会で演説したゼイド・フセイ国連人権高等弁務官(ヨルダン)は「日韓合意」について、「サバイバー自身から異議が唱えられている」「償いを受け取ったかどうかは、彼女たちだけが判断できる」と述べました。
 しかし、菅官房長官および岸田外務大臣は、「勧告は国際社会の受け止めと大きくかけ離れており、批判は全く当たらない」と主張、直ちに国連側に抗議しました。言うまでもなく、国際社会の人権基準と大きくかけ離れているのは日本政府自身です。
 
■被害者と韓国市民社会の願い

 韓国では「合意」の翌日29日には韓国挺身隊問題対策協議会をはじめ市民団体が「日本軍『慰安婦』関連団体の立場」とする抗議声明を発表、12月30日の水曜デモには被害者自ら参加して抗議の声をあげました。1月6日には「日本軍『慰安婦』問題の正義の解決世界行動」が呼びかけられ、13カ国41カ所で集会・デモが開催されました。
 被害者たちは「安倍首相は私たちの前に来て謝罪すべき」「お金じゃない。名誉回復を求める」「亡くなった被害者に面目ない」と語っています。当事者を抜きに外交決着したうえで、これしかない、受け入れろと言うのが政府が被害者に対して取るべき態度でしょうか。「合意」後、多くの市民社会団体が次々と抗議声明を発表、日本大使館前では抗議行動が連日のように行われるなか、1月14日、「合意」に反対する市民らによる「『慰安婦』合意無効と正義の解決のための全国行動」が立ち上がりました。6月には、「日本軍性奴隷問題解決のための正義・記憶財団」が発足します。「慰安婦」問題の真相究明と、被害者福祉を目的とする財団に、現在までに10億ウォン(1億円)の募金が集まっています。
 一方、5月31日、韓国政府は「日韓合意」に基づく「和解・癒し財団」設立に向けて金兌玄誠信女子大名誉教授を委員長として準備委員会を設置しました。金委員長は会見で日本政府からの10億円の意味について「(被害者を)治癒するための資金であり、賠償金ではないと思う」と述べたものの、政府の立場と違うとして後に撤回する場面がありました。10億円の拠出金が法的責任を認めたものではなく、賠償金でないことは日本政府が当初から明言しているにも関わらず、賠償金であるかのように誤魔化し、被害者を納得させようとする韓国政府の姿勢は受け入れがたいものです。また、当初6月と言われていた財団設立が7月末へとずれこんだ背景には、10億円の拠出に際し、「少女像」の撤去を求める日本政府内からの強い要求があります。「合意」直後からスタートした日本大使館前「少女像」移転に抗議する学生らによる行動と市民による支援は現在も続いています。「少女像」を公館の威厳を損なうから撤去せよという日本政府の要求こそ、被害者を侮辱するものであり、歴史的事実や記憶を消し去りたいという願望にほかなりません。同時にそれが「合意」の中心にあった日本政府の意図なのでしょう。「日韓合意」は結局、財団を通じて日本政府からのお金を被害者たちに伝達することで、この問題を終わりにすること、歴史から葬り去ることにその目的はあったといえます。
 しかし、日本軍「慰安婦」の歴史をなかったことにすることはできません。たとえすべての被害者が亡くなられたとしても、その記憶と記録は未来へと引き継がれるでしょう。被害者たちの引き裂かれた人生を取り戻すことはできなくとも、その遺志を継いで平和な未来を描くことはできます。日本政府の加害責任を問い、性暴力の歴史を断ち切るために私たちはこれからも行動します。
 5月31日、日本や韓国、中国、フィリピン、インドネシア、東ティモール、オランダ、台湾など被害国市民による「国際連帯委員会」と、英ロンドンの「帝国戦争博物館」が共同で「日本軍『慰安婦』の声」という名称でユネスコの世界記憶遺産に「慰安婦」問題関連資料の登録申請をしたことはそのための大きな一歩でした。
 「合意」から半年余りの間に、韓国の被害者のうち6名が亡くなり、生存者は40名となりました。被害者の名のり出と、25年間の運動および民間の調査・研究が切り拓いた地平を見据え、これからも決してあきらめることなく、みなさまとともに日本政府に解決を求めるとともに、今も続く戦時性暴力の実相に迫り、女性の人権につながる議論へとさらに発展させていきましょう。

 2016年7月28日
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク

アベ政治を許さない!

再びこの国を誤った方向に進めないために、私たちはあきらめず、闘い続けます!

 私たち関西ネットは、日本軍「慰安婦」問題を通して、安倍首相や橋下市長に植民地支配や侵略の加害の歴史と向き合うことの大切さを訴え続けてきました。戦後70年の今年こそ、過去の歴史を省みて、アジア、とりわけ東アジアの人々と平和への新しい第一歩を踏み出す年にしたいと強く願っていました。しかし安倍政権は、この国を再び「戦争をする国」へと根底から変えつつあります。私たちは、断固抗議します!

◆戦争法を許さない!

 安倍首相のやることは、許せないことばかりです!
 2012年12月、第二次安倍政権が発足しました。安倍首相は「戦後レジュームからの脱却」を掲げ、憲法破壊をめざしています。日本はギリシャに次ぐ負債大国ですが、安倍首相の目はそこには向いておらず、今年の4月の訪米時には「アベノミクスを突き詰めていくと、防衛費を増やすということにつながる」とまで発言しています。生活を不安定にする非正規雇用拡大政策を進めていますが、自衛隊員を増やすための伏線でしょうか。今や、子どもの6人に1人が貧困という、あってはならない影響まで出てきているというのに。また、安倍首相は突然、「一億総活躍社会」を言い出しましたが、2018年から道徳を正規の教科にすることも決めています。国家が国民の身も心も一まとめにして、どこへ持って行こうというのでしょうか。福島原発事故解決のメドさえ立っていないのに、安倍首相は原発再稼働を進め、原発輸出のトップセールスもしています。

 しかし、やはり一番ひどいのは、主権を持つ日本国民ではなく米国政府の方を向き、この国を米国に協力して再び「戦争をする国」へと戦争法を成立させたことではないでしょうか。当然、今までになく全国津々浦々で、若者も戦争を経験している高齢者も子ども連れの女性たちも、自分で考え自分で決め、反対のために立ちあがりました。しかし、安倍首相は決して耳を傾けようとしませんでした。
 安倍政権は、2013年12月6日に特定秘密保護法を制定、2014年4月1日に武器の輸出・開発・製造などを可能にする防衛装備移転3原則を閣議決定、7月1日には解釈改憲で集団的自衛権行使容認を閣議決定と、暴走を続けました。
 その後、今春の連休に訪米し、4月27日、なんと、戦争法成立を見越して、自衛隊と米軍の役割分担を決めた防衛協力(日米ガイドライン)の改定を行いました。29日には米国議会で、あろうことか、安倍首相が「安保法制を夏までに成立させる」と発言したのです。この首相の約束発言に、どれだけ多くの人々が耳を疑ったことでしょう。
 しかし、これだけで終わらず、後に、防衛省制服組の暴走も次々と明らかになります。河野統合幕僚長が昨年末の訪米時、米軍幹部に「安保法制は夏までに成立」と回答していました。さらに、自衛隊統合幕僚監部が、5月に衆議院で戦争法案の審議が開始されるのと同時に、8月の成立を見込んで、自衛隊と米軍の共同軍事作戦の計画書を作成していたことも明らかになりました。その中では、なんと、自衛隊を「軍」と表記していたのです。安倍政権は今年の3月、防衛省の制服組(自衛官)と背広組(官僚)が対等な関係で防衛相を補佐するよう、制服組の影響力を増大させています。これでは、制服組(=軍)が暴走して、再びあのような歴史が繰り返されはしないかと、今から非常に心配です。
 メディアの世論調査では、約6割が法案に反対、約8割が今国会での成立には説明不足と答えているのに、安倍政権は憲法違反、立憲主義破壊、民主主義破壊を平然と行いつつ、9月19日、安保関連法=戦争法を強行成立させました。安倍政権の暴挙を許さない!

◆安倍談話を許さない!

 8月14日、「日本軍『慰安婦』メモリアルデー」のその日、安倍談話が発表されました。つながりの悪い小さい文をたくさん並べた、非常に読みづらいものです。戦争法で軍事化を決定づけ、談話で歴史修正主義の認識を固定化しようというのが安倍首相の目論見です。従って、私たちが願うような、加害国の首相として植民地支配責任や戦争責任を果たそうという内容のものではまったくありません。
 安倍談話では、台湾や朝鮮の過酷な植民地支配についてほとんど触れていません。朝鮮の植民地支配への道を拓いた日露戦争については反省をしていないどころか、この戦争をしてよかったかのように書いています。「隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み」と語った時、朝鮮民主主義人民共和国が除外されているのも許せないことです。植民地支配や侵略の犠牲者について述べた文は、責任を語る言葉もなく、「痛惜の念、哀悼の誠、断腸の念」等の言葉を繋いだだけの奇妙なものです。自国の犠牲者数300万人は書き込んだのに、それをはるかに上回るアジア・太平洋地域の犠牲者数2000万人は明記していません。「慰安婦」被害者のことは、「深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たち」と書いています。安倍首相の今までのこの問題への対応を思い起こすと、「その事実を認めたくないから『慰安婦』とは呼ばない」という心が透けて見えますが、「傷つけられた」とは一体どういうことでしょうか。日本軍や政府の関与は明白なのです。「女性たちの心に常に寄り添う国でありたい」とも言っていますが、「彼女たちを何度も傷つけ続けているのは誰だ!」と、叫ばずにはおれません。
 安倍首相は談話の中で、「繰り返しお詫びを表明してきた」、「子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と述べています。これは、「過去のことは、この安倍談話でもう終わりにする」ということの表明でしょう。しかし、お詫びも謝罪も相手が受け入れてくれて、初めて実現できることです。安倍首相が犠牲者について書いている文には主語がないのに、米国・豪州・欧州諸国に戦後の支援のお礼を言う時には、しっかりと「私たちは」と書いています。首相は、被害者の立場に立って、この談話を読み返してみたのでしょうか。安倍首相が終わらせたいと思っても、これでは無理です。被害者たちが受け入れることができなければ、解決ではありません!

 安倍首相の最終目的は、祖父岸信介元首相の願いを継ぐ平和憲法破壊です。なんと、9月11日、まだ戦争法案を国会審議中に、「憲法改正は来年夏の参議院選後に」と発言していたことも明らかになっています。私たちは、アジアの、とりわけ東アジアの人々とともに平和な世界を創ることをめざしています。そのためにも、平和憲法を手離すわけにはいきません。安倍首相は、「戦争をする国」の大きな流れに私たちを巻き込もうとしていますが、そうはいきません。一度気付いた私たちは、あきらめません。再び戦争をしないために、闘い続けます!

 2015年10月16日
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク

戦後70年 安倍談話を許すな!

政府は日本軍「慰安婦」被害者への加害の事実を認め、謝罪し、賠償せよ

 みなさま
 戦後70年となる今年は、日韓条約から50年、金学順さん名のり出につながる韓国挺身隊問題対策協議会発足から25年を迎えます。日本の現状は厳しく、「慰安婦」問題解決の取り組みを進めてきた私たちにとっても安倍政権下で今後どう進めていくのか、真価が問われています。


■戦争のできる国へと向かう安倍政権

 安倍首相は昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定以来、アメリカとともに戦争のできる国に向けてひた走り、4月末の訪米では、まだ国会に提出もされていない安保法制を8月までに成立させると米政府に約束しました。米軍の軍事作戦に参加するために、自衛隊は地球の裏側までも駆けつけようというのです。平和憲法のもとで安全保障政策の転換を強行するために、国会では聞くに堪えないごまかし、はぐらかしの不誠実な答弁を繰り返し、国民にまともな説明もしないまま強行採決しようとしています。こんな国民無視、憲法無視の態度が許されてよいでしょうか。

■安倍政権の歴史認識と「安倍談話」

 今回、安倍首相は米議会で演説しましたが、日本軍「慰安婦」問題には全く触れませんでした。それどころか「侵略」「謝罪」の言葉すらありません。これまでも安倍首相は「村山談話を引き継ぐ」といいながら、植民地や侵略という言葉を「もう一度書く必要はない」と述べており、演説内容がそのまま「安倍談話」に引き継がれる可能性があります。侵略や植民地、「慰安婦」の歴史を消去したい安倍首相の願望を「安倍談話」に結実させないための行動が、いま問われています。
 昨年8月に朝日新聞が吉田清治証言の記事を「虚偽」として取り消したことを受け、朝日新聞バッシングと「慰安婦」の歴史的事実そのものを否定する風潮が社会に渦巻きました。その先頭に立って声をあげたのも、やはり安倍首相でした。報道の直後からインタビューやテレビで「この誤報によって多くの人々が傷つき悲しみ、苦しみ、怒りを覚え、日本のイメージは大きく傷ついた」「日本が国ぐるみで(女性を)性奴隷にしたとの、いわれなき中傷が世界で行われているのも事実」と繰り返し述べ、政府の責任を否定するばかりか、政府こそが「デマによる被害者」であるかのように言いつのったのです。これは金学順さんが政府答弁のウソに我慢がならず名のり出た時代よりもさらに後退した発言で、被害者たちの25年間の歩みを全否定するものです。


■日本政府に「提言」を受け入れさせよう

 私たちは、「慰安婦」問題の解決を願って運動を進める全国の市民団体と、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動(以下、全国行動)というネットワークを作っています。その全国行動では、2012年から日韓の弁護士・研究者らとともに「日韓TF会議」を立ち上げ、政府が主張するような「人道的見地」「道義的責任」ではなく、「被害者が納得できる解決」、つまり「法的解決」の具体的な中身について明確にするための議論をすすめてきました。昨年5月に東京で開催された第12回アジア連帯会議では、TF会議で積み上げてきた「法的解決」案をもとに、その場に参加した中国、台湾、フィリピン、インドネシアなど8か国の被害者・支援者らとともに議論を重ね、「日本政府への提言」としてまとめました。
 「提言」は<その一>として、日本政府が@慰安所の立案・設置・管理・統制 A女性たちが意に反して性奴隷にされ、強制的状況下におかれた B女性たちの被害は甚大であり、現在も続いている C当時の国内法・国際法に違反する重大な人権侵害であった―との事実を認め、<その二>として、4点の被害回復措置を求めています。即ち、@明確で公式な謝罪 A謝罪の証としての賠償 B真相究明 C再発防止と教育、です。
 そして今年の5月21〜23日、ソウルで開催された第13回アジア連帯会議では、日本政府に「提言」を受け入れさせるために、国際連帯行動を強めていくことが決議されました。日本でも今後「提言」を広める活動、「慰安婦」問題解決を求める「市民宣言」の発出や、8・14日本軍「慰安婦」メモリアル・デーの全国的取り組みを進めることなどを決めました。


■歴史の逆走を許さないために

 日本軍「慰安婦」問題に限らず、いま、日本の各地で歴史の改ざんが進んでいます。
 昨年、天理市の柳本飛行場跡地に設置されていた「強制連行」「慰安所」の記述がある銘板が撤去されたのをはじめ、茨木市でも大阪警備府軍需部安威倉庫跡地に設置されている「強制連行」の記述がある銘板が撤去されようとしています。こうした動きは群馬や福岡、長崎など各地で起こっています。また、加害の歴史にも向き合う平和資料館として1991年に開館したピースおおさかも、橋下市長らの攻撃で加害の歴史を全面撤去し、戦争を国家の視線から正当化する内容に大きく変えられて、4月30日にリニューアル・オープンしました。
 今年は中学校の教科書採択の年にあたり、4月に検定結果が発表されました。すべての歴史・公民教科書に領土問題が記述されるなど、政府の「公式見解」が反映されました。加害の歴史を記さず、戦争を賛美し、改憲を主張する育鵬社の教科書は安倍政権や橋下市長のような首長の後ろ盾を得て、採択率を伸ばしかねない状況です。
 一方、このような状況に危機感を持っている現場の教師たちは教科書発行会社「学び舎」を立ち上げ、「慰安婦」問題についても記述した教科書ができました。検定で大きく削除を強いられたものの、「キム・ハクスン」の名前や「河野談話」は残り、4年ぶりに中学校教科書に「慰安婦」記述が復活しました。

 歴史の否定はさらなる差別排外主義を生みだし、「戦争ができる国」づくりにつながります。過去の歴史を問う事を「自虐的」とし、加害の歴史を正当化・美化することは、次の戦争への道を開きます。そして為政者が権力を縛るための憲法をないがしろにして政治や国を動かそうとした時、いったい何が起こるのでしょうか。この流れを止めるために、今こそ私たち市民が行動する時です。
 私たちは、戦後70年の今年、関西において思いを同じくする市民らとともに、日本政府が侵略と植民地の加害の歴史を認め、原爆、空襲、沖縄戦などの犠牲にしっかり向き合って、東アジアの人々と平和な未来を築くことができるよう行動します。5月11日「戦後70年 東アジアの未来へ!宣言する市民」をたちあげました。安倍談話を許さないために、市民による宣言を発表します。
 「戦争をする国はイヤ!」
 「日本軍『慰安婦』問題の解決を!」
 ともに声をあげ、連なってくださることを心より願っています。

2015年6月15日
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク

世界は「慰安婦」問題の解決を求めている

安倍政権の暴走を許さない

 暑中お見舞い申し上げます。
 今年の夏はいつにもまして暑苦しく、重い空気に覆われているように感じませんか。
 安倍政権発足から2年足らずの間に、この国の形は安倍さんの思いのままに変えられようとしています。アベノミクス経済効果を前面に押し出すことで得た安定的支持率をバックに、原発推進政策、特定秘密保護法、国家安全保障会議(NSC)設置、靖国神社参拝、武器輸出三原則の緩和ときて、ついには7月1日、集団的自衛権行使容認を与党だけで閣議決定してしまいました。恐ろしいまでの強引さで「戦争のできる国」へと舵を切る一方、中国・韓国など、周辺諸国との間では領土問題や歴史認識をめぐって、深刻な対立状況が続いてます。「対話の窓はいつでも開いている」と繰り返す安倍首相ですが、靖国参拝や河野談話検証など、対話の動きに常に水を差してきたのは誰でしょう。
 こうした中、私たちは2月に開催された日本軍「慰安婦」問題解決全国行動会議の討議を経て、第12回アジア連帯会議を安倍首相の足元である東京で開催することに決定しました。


 ■ 第12回アジア連帯会議開催 (5/31〜6/4)

 1992年8月にソウルで始まったアジア連帯会議ですが、22年の歳月を経た今なお被害者の要求は何一つ実現していません。勇気をふりしぼって名のり出られた被害者の多くがすでに亡くなられ、残された時間も迫る中、居ても立ってもいられない思いでその日を迎えました。
 今回、韓国から金福童さん、李容洙さん、インドネシアからスリ・スカンティさんとミンチェさん、フィリピンからエステリータ・バスバーニョ・ディさん、在日韓国人の宋神道さんと、中国から2名の遺族が参加されました。また、アジア各国とオランダの8か国から支援者が駆けつけ、日本各地からも多くの方が参加、のべ750人になりました。
 2日間にわたる各国代表者会議と、参加者らによる全体討論会では解決に向けて熱い議論が交わされました。
 3日目となる6月2日に開催された院内集会で目を引いたのは17か国、20名の大使や外交官の参加でした。少なくない国々で「慰安婦」問題が注目されていると感じました。ちなみに衆参議員は7名が参加しました。
 院内集会後、私たちは2日間の討議を経てまとめた日本政府への提言と、河野談話発表以降20年の間に新たに発見された資料529点を運び込んで内閣府に提出しました。院内集会の前には国会前スタンディングデモを関西ネットメンバーが中心となって準備しました。集会前のあわただしい時間にも関わらず、被害者と海外ゲストが次々駆けつけ、力強いアピールが続きました。さらに3日、4日には7大学のべ1500名の学生らを対象に証言集会が持たれたことも、今回の取り組みの大きな成果につながったと確信します。
 わずか3か月という限られた時間の中で、東京のメンバーを中心に準備された会議は大きな成果と課題を残して終えることができましたが、これから日本政府をどう動かすことができるのか、正念場を迎えています。
 6月18日、辻元清美議員より私たちが院内集会で提出した資料の扱いについて「質問主意書」が出されましたが、6月27日、政府は「答弁書」で、「現在、内閣官房副長官補付において保管している」としか回答はありません。これでは放置されているのと同じです。「強制性を示す証拠はない」と繰り返しながら、それではと目の前に積み上げた資料を、知らん顔をして見ようともしない、こんな態度が許されていいものでしょうか!


 ■ 「河野談話検証」をめぐって

 6月20日、河野談話検証チームによる検証結果が大々的に発表されました。報告書では「一連の調査を通じて得られた認識は、いわゆる『強制連行』は確認できないというものであった」ことを強調しています。今回の騒動の出発点となった「元慰安婦16人の証言」については「聞き取り調査終了前に既に談話の原案が作成されていた」ことが明らかにされました。「元慰安婦16人の証言だけに基づいて募集時の強制を認めた」と決めつけ、談話の見直しを求めてきた勢力の論拠が見事に覆されたにも関わらず、結果を受けて当の維新の会国会議員らは「聞き取りは儀式であり、韓国側とのすり合わせの状況が明らかになった」とし、次のターゲットとして、強制連行を認めた河野元官房長官こそが日本の名誉を傷つけ、現在の状況を生み出した張本人だとして、国会への参考人招致を執拗に求めています。しかし、当時の朝鮮半島における誘拐・拉致・人身売買などは明確に本人の意思に反した連行であり、強制連行以外の何ものでもありません。また、河野談話の根拠となった公文書の中には、当時法務省が所蔵していた「バタビア臨時軍法会議の記録」があります。これは明らかに当時の日本軍による強制性を立証するものです。そもそも、当時アジア各国に被害者が存在していたことを認知しながら、調査の範囲を韓国にしぼり、「慰安婦」問題を日韓問題に狭めようとしていたのです。
 韓国政府は今回の「河野談話」検証騒動について、当時両国間で意見交換があったことを認めつつ、そうした外交的内容を相手の同意もなく一方的に公開したばかりか、河野談話を二国間協議の産物として価値を低めようとするものとして厳しく批判しています。


 ■ 国連自由権規約委員会 日本政府に厳しい勧告

 アジア連帯会議からひと月後には国連自由権規約委員会がジュネーブで開催され、日本からも59名のNGOが参加しました。全国行動からは共同代表で、「女たちの戦争と平和資料館」(wam)事務局長である渡辺美奈さんが参加しました。驚くことにこの場にNGOとして「なでしこアクション」らヘイトグループから11名も参加しました。彼らの目的は国際社会に「慰安婦問題の嘘」を訴えることにあり、出発前の外国特派員協会に続いて、現地でも2回にわたって記者会見を行い、自らの主張を展開、日本審査委員会の場において、日本政府報告者の「性奴隷制はなかった」発言に拍手をするなど、ひんしゅくをかいました。
 日本政府は7月15、16日の審査で「慰安婦」問題は二国間条約等々で法的に解決済み、政府としてアジア女性基金への協力を通じて誠実に対処したと回答、さらに先日の「河野談話」検証結果を踏まえて「一連の調査の結果、いわゆる強制連行は確認できていないとの認識で一貫していたことが認められた」と語りました。そのうえで「当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあったことを踏まえ、慰安婦の募集、移送、管理等の段階を通じてみた場合、いかなる経緯だったにせよ、全体として個人の意思に反して行われたことが多かったとの趣旨で、『甘言、強圧等による等、本人の意志に反して』という表現になった」と説明しました。加えて「慰安婦制度を性奴隷制度と呼ぶのは不適切」と強調しました。
 今回の日本政府の報告内容が、人権状況について審査するこのような場には到底ふさわしくないものだったことは、日本審査の最後に議長が語った言葉に象徴されます。議長はこれまで日本政府に対して何度も繰り返しているのに、いまだ何の進展もないテーマのひとつとして「慰安婦」問題を取り上げました。そして、「強制連行」と「意志に反する」ことの違いが、自分たちは賢くないのでわからないという皮肉から始まり、性奴隷に疑念があるのであれば、独立した国際的な調査で明らかにすべきだと発言したのです。
 予想通り、7月24日、日本政府に対する厳しい最終所見(勧告)が出されました。
 委員会は、被害者の意思に反して行われたそうした行為はいかなるものであれ、締約国の直接的な法的責任をともなう人権侵害とみなすに十分であると考える。
 委員会は、公人によるものおよび締約国の曖昧な態度によって助長されたものを含め、元「慰安婦」の評判に対する攻撃によって、彼女たちが再度被害を受けることについても懸念を表明する。
 委員会はさらに、被害者によって日本の裁判所に提起されたすべての損害賠償請求が棄却され、また、加害者に対する刑事捜査及び訴追を求めるすべての告訴告発が時効を理由に拒絶されたとの情報を考慮に入れる。
 委員会は、この状況は被害者の人権が今も引き続き侵害されていることを反映するとともに、過去の人権侵害の被害者としての彼女たちに入手可能な効果的な救済が欠如していることを反映していると考える(2条、7条、8条)
 勧告は最後に日本政府に6項目の行動を義務付けていますが、その内容は加害者の訴追や被害回復措置、証拠の開示に加え、公衆の教育や責任の公的認知、被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての試みへの非難が入っています。ここに今日本で起こっている政府・官・民一体となった「慰安婦は嘘」という、被害者の尊厳を傷つけるヘイト・クライムに対して、日本政府として明確な措置をとることを強く求める意図が込められています。
 「慰安婦」制度のもとで、言葉に言い尽くせない苦痛を味わい、戦後も苦しみの中で生きてこられたひとりひとりの女性たちの人生を考えた時、繰り返し国家の責任を否定する姿勢は許しがたいものです。数々の人権委員会から重ねて勧告を受けながらも、日本政府の対応は改善するどころか、ますますひどくなっています。今回の日本政府報告の内容は、ヘイトグループらの行動がネット上や社会にあふれるこの日本の状況を許しているのはまさに日本政府自身だと確信させるに十分なものでした。

 ■ 今、日本で起こっていること

 今回の自由権規約委員会ではヘイト・スピーチ問題についても、「加害者とされる者が処罰されることを保証するためにすべての必要な措置をとるべきだ」との厳しい勧告が出されました。これまで私たちの「慰安婦」問題解決の行動を追いかけて妨害することを事としてきた彼らですが、その行動はより多様で巧妙になっています。
 群馬県の許可のもと、県立公園内に建てられた戦時中の朝鮮人強制連行犠牲者の追悼碑について、最近になって県は2年ほど前から強制連行や「慰安婦」の記述に抗議が寄せられていることを理由に設置の許可を更新しない方針を決めました。また、関西でも同様の動きが起こっています。奈良県天理市では、海軍飛行場の跡地にあった説明板の強制連行や慰安所についての記述をめぐって抗議が寄せられたことを契機に、今年4月、市が説明板を撤去しました。さらについ最近、大阪府茨木市の旧軍施設跡に戦後50年記念に設置された銘板に「強制連行された朝鮮人が苛酷な労働に従事させられていました」との記述が残っていることを理由に茨木市が府に撤去を要請する方針を決めたのです。「慰安婦」問題のみならず、朝鮮人強制連行などの歴史的事実さえも否定する歴史修正主義の動きが広がっています。
 また、ヘイトグループやつくる会教科書、右派議員らが名前を連ねた「検証 いわゆる従軍慰安婦展」を各地で開催、「慰安婦」問題のみならず、在日朝鮮人差別と偏見を煽り、韓国蔑視、女性差別を鮮明にした100枚に及ぶパネルが展示されており、目が離せない状況です。
 安倍首相によってNHK経営委員として送り込まれた百田尚樹氏は7月17日のNHKニュース番組で、キャスターが「在日コリアン一世は強制連行で苦労した」という趣旨の発言をしたことについて、「在日韓国・朝鮮人を日本が強制連行したと言っていいのか。間違いではないか」「日韓併合後に強制連行は無かった。NHKとして検証したのか」などと経営員会で発言していたことが明らかになっています。放送法は委員の個別番組への干渉を禁じており、また、ネット右翼がNHK攻撃の材料にしているようなことを経営委員自身が発言するとは言語道断です。
 こうした歴史歪曲の動きの背景には、戦後70年を前にして、再び戦争のできる国を目指す安倍政権の願望が反映されていると言えます。安倍政権は各国を飛び回って原発輸出やODAなど経済主導の関係づくりに奔走する一方、周辺国との関係を悪化させてきました。このままでは日本はアジアでの孤立を深めてしまうでしょう。アジアとの正常な関係を築くこと、平和と安定は軍事力ではなく、互いの尊重と信頼で築かれるという基本を忘れてしまった安倍首相に、これ以上舵を任せるわけにいきません。安倍政権の暴走を許さず、NOを突きつけましょう。
 来年の戦後70年を前に、過去の反省を明確にし、「慰安婦」問題をはじめ、残された過去清算の解決とともに、平和と民主主義を守りアジアとの共生を目指す出発点となるよう、ともに行動していきましょう!
 2014年7月31日
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク

2014年新春にあたって

安倍政権の歴史認識を問う一年に!

あけましておめでとうございます。
旧年中のみなさまのご支援に心より感謝いたしますとともに、本年も引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。
■第二次安倍内閣の出発で始まり靖国参拝で終わった2013年
 3年間の民主党政権への審判が下された2012年暮れの衆議院選挙で圧倒的勝利を収めた自民党による政権交代。2007年に続く第二次安倍内閣が発足したのは12月26日のことでした。
 それから一年目となる昨年12月26日、突然の安倍首相による靖国神社参拝が行われました。
 安倍首相は就任以降、靖国神社参拝をしないとは一度も言っておらず、むしろ、第一次安倍政権下で参拝しなかったことを「痛恨の極み」と言い、閣僚の参拝に対する批判に対しては「どんな脅かしにも屈しない」と答えるなど、就任直後から参拝の機会をうかがっていたことは明らかです。一部報道では首脳会談の見通しがたたない状況下での判断という見方がありましたが、これは事実と異なります。日中間においても日韓間においても、関係改善への努力が進められているさなかでの靖国参拝でした。
 被害国の感情を理解どころか配慮さえできない安倍首相の靖国参拝に、アジア諸国から強い反発があがったのは当然のことです。日本軍が侵略し占領し植民地支配した土地には、被害にあった人々がまだ存命されています。A級戦犯は言うに及ばず、天皇のために命を落とした侵略の尖兵を神と祀る神社を参拝するなど、被害者が容認できるわけがありません。
 またアメリカは昨年10月にケリー国務長官が千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れて献花したことに見られるように、首相の靖国神社参拝には否定的であり、今回の首相参拝直後には「失望した」という強い批判の声明が出されています。

 この一年間を振り返れば、安倍首相は表向きは経済政策で国民の高支持率を維持しながら、一方では猛スピードで自らの宿願をひとつひとつ果たしてきたと言えます。それは強固な日米同盟を築くため、集団的自衛権をはじめ日本の軍事的役割を強化し、戦争のできる国をめざす方向でした。そのための布陣として、第一次安倍内閣と同様、日本の侵略戦争を否定し日本軍「慰安婦」問題も認めない「日本会議」や「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」、「新憲法制定議員同盟」メンバーらを多用し、かねてからの主張である「戦後レジューム」からの脱却をめざす内閣のもと、外交・防衛・教育などにおいて主導権をふるいました。
 さらに7月の参議院選挙でも勝利すると、憲法改正に先駆けて、現憲法下での「集団自衛権」合法化を進め、10月の国会で国家安全保障委員会を立ち上げたのに続き、だまし討ちのように「特定秘密保護法」を成立させたのです。所信表明にさえ出てこなかった法案を、内部ですらろくな議論や調整もなく、数の力で強行採決、通ってから中身を考えるというような到底受け入れられない、無謀なやり方でした。これは国民主権や平和主義、人権尊重という国家の理念を根底から覆すものです。
 続けて、息つく間もなく、沖縄の普天間基地の辺野古移設に向けて、札束をちらつかせて知事の承認を取り付けた安倍首相は、その翌日に靖国神社を参拝したのでした。
■安倍首相の歴史認識
 就任直後、「河野談話」「村山談話」の見直しについて言及したことで国際社会から強い非難と警戒の声が起こり、「極右政権」と報道されました。以降は発言を控えたものの、「河野談話」について明確な継承の意思を表明せず、国会で「政治・外交問題化させるべきではない」と繰り返し、村山談話について「そのまま継承しているわけではない」と答弁しました。一方で「侵略という定義は学会的にも国際的にも定まっていない。国と国の関係でどちらから見るかで違う」と発言しています。これは中国への侵略戦争や朝鮮半島・台湾への植民地支配の歴史を否定する意味にもとれる、とんでもない発言です。
 一方で9月には国連総会演説で「21世紀のいまなお武力紛争下で女性に対する性的暴力がやまない現実」にふれ、問題解決のために物心両面での支援することを約束しながら日本軍「慰安婦」問題には一切触れないなど、厚顔無恥な対応を繰り返しました。
 教育問題においても、かねてから志を同じくする下村博文氏を文科大臣とし、「つくる会」系の「日本教育再生機構」代表である八木秀次氏や作家の曽野綾子氏など価値観を同じくするメンバーを集めて「教育再生実行会議」をたちあげました。これまでの歴史教科書を「自虐史観」と批判し、新教育基本法に基づく「愛国心教育」や道徳の教科化、教科書採択制度を変え、お国のために戦場で戦える子どもたちの育成をめざしています。戦後歴史の反省に立って教育への国家権力への不当支配を許さないために設置された教育制度は、今や風前の灯となりつつあります。
■維新・橋下市長の相次ぐ歴史否定発言
 一方、昨年に引き続き、維新・橋下大阪市長の「慰安婦」必要論や在沖縄米軍に風俗活用を勧める発言は、日本国内だけでなく、国際社会からも大きな批判をあびました。これにより、橋下市長と維新の会の支持率は低迷しましたが、反省の姿勢を見せるどころか、正当化にやっきとなりました。その主な主張は@民間業者がやったこと、A日本兵の行為が女性の尊厳と人権を蹂躙した、B世界各国で戦場の性の問題はあったとしながら、国家の意思や組織的関与を否定し、むしろ日本は「誠実に対応してきた」、日本へのネガティブキャンペーンであると批判を返しています。
 日本軍「慰安婦」制度は当時の軍がつくり、維持・拡大したものであり、国家の関与は数々の証拠・資料によっても明らかです。にもかかわらず、それを正当化する姿勢はとうてい許されないものです。
■相次ぐ国際社会からの厳しい批判
 安倍首相の「河野談話」見直し発言同様、橋下市長による「慰安婦」制度は必要だったとの発言に国際社会は黙ってはいませんでした。各国メディがこれを大きく取り上げて厳しく批判したほか、同時期開催されていた国連拷問禁止委員会の対日勧告では橋下市長の発言を念頭に「政府や公人による事実の否定、元『慰安婦』を傷つけようとする試みに反論するよう」求めました。しかし、安倍首相はあろうことかこうした勧告に対し、国会答弁で「法的拘束力はない」「従う義務はない」と反論しました。
 昨年一年間を振り返り、日本におけるヘイトクライム、ヘイトスピーチの横行が社会全体を揺るがす深刻な問題となっていることを指摘せざるをえません。それ以前にも差別排外的主張を各所で繰り広げていた彼らの行動は年々深刻化しています。「慰安婦」問題を否定し、私たちの行動を監視・攻撃を繰り返し、歴史の事実を否定し、被害者の尊厳を傷つける暴力的発言も問題ですが、それを何の手立てもなく放置する日本社会のありようが問われた一年でもありました。国家の歴史認識問題は今や二国間だけの問題ではありません。それを取り巻く周辺国との関係や国際社会の中での立場が問われることを日本政府は認識すべきでしょう。
■2014年を「慰安婦」問題解決の年に!
 昨年は金学順さんが初めて日本軍の「慰安婦」であったと名のり出た22年前の8月14日を日本軍「慰安婦」問題メモリアルデーとするスタートの年でした。8・14キャンペーン行動をはじめ、一日も早い解決のための行動を「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク」として、また「日本軍『慰安婦』問題・解決全国行動」として全国各地で取り組んできました。一方で韓国でフィリピンで中国・台湾で、多くの被害者が無念の思いでこの世を去られました。私たちはお一人お一人の壮絶な苦しみの体験とともに、名のり出たのちも日本政府から誠意ある謝罪の言葉すら受け取れないまま逝かれたことを、その無念の思いとともに心に刻みます。
 解決のために残された時間が迫りつつあるあることを痛感しつつ、右傾化やバックラッシュが深刻化する日本社会にあって、私たちは何よりも市民への訴えを広げ、平和運動、教育運動などより多くの仲間と連帯し、また国際連帯行動も強化していきます。
 最後にあらためまして、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2014年1月1日
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク