奈良の朝鮮人連行と「慰安所」跡を訪ねて

天理「柳本飛行場」跡地 フィールドワーク報告

飛行場跡地に設置された説明板
 日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワークは、天理高校元教諭で「奈良県での朝鮮人強制連行等に関わる資料を発掘する会」(略称・発掘する会)事務局次長の高野眞幸さんの案内で、2014年1月19日、天理市にある通称「柳本飛行場」跡地を訪れました。
 「柳本飛行場」、正式には「大和海軍航空隊大和基地」は、1943年秋頃から建設が始まり、多くの朝鮮人労働者が強制的に連行され就労させられたところです。
 当時は慰安所もあり、植民地朝鮮の女性が‘性奴隷’とされた悲しい歴史の跡地でもあります。
 1943年(昭和18年)といえば、兵力不足を補うため‘学徒’(大学生、朝鮮半島、台湾、‘満州国’出身者らも含む)が戦線へ送り込まれるなど‘戦時総動員’体制が強化され、戦闘員として動員された労働力の不足を朝鮮半島や台湾から補充しなければならなくなった時期です。朝鮮半島から多くの少女が‘女子挺身隊’の名で軍需工場などに動員され、重労働を強いられました。男性は日本各地の炭鉱や発電所などの建設現場で人夫として働かされ、その労働実態は過酷なものでした。
 また、‘本土決戦’を覚悟した軍部によって、‘天皇家発祥の地’と言われている奈良・柳本周辺一帯を「御座所」とする案があったとも言われています。
 海軍航空隊が柳本に基地を構え、陸軍航空隊が大阪府八尾市に現在の「八尾飛行場」を基地としました。
今も残る水路(暗渠) 金学順ハルモニが立ち寄った防空壕跡
 柳本飛行場に作られた滑走路は、幅100m、長さ1500mと大規模なものでした。滑走路は二本作られる予定でしたが、敗戦で一本だけに留まりました。米軍が接収した後、元の農地に戻され、滑走路の両側には滑走路への地下水の侵入を防ぐために暗渠による水路が設けられましたが、その暗渠は今も田んぼの中に残されています。
 さらには二つの防空壕も作られましたが、防空壕は堅固な作りであるため撤去できず、今も原型をとどめています。ここには、金学順ハルモニも見学に訪れました。
 柳本飛行場が建設される以前から日本に来ていた朝鮮人労働者らは、各地の建設現場を転々とし、なかには故郷から家族を呼び寄せる者もいました。戦時中の大型建設現場であった現地は、大林組が元請けとなり、日本各地の朝鮮人人夫が駆り集められ、足りない労働力は朝鮮半島から強制的に動員されました。強制連行組は厳しい統制下に置かれていたと言われています、最も多いときは3000名余りが動員されていたようです。
 この地には慰安所もあったことが確認されています。慰安所は戦地、占領地にあるものと思われがちですが、国内にも少ないながら慰安所は確認されています。松代にあったという慰安所は有名ですが、同じく「御座所」建設がされていたここ柳本にも慰安所があったのです。
 強制連行され柳本の労働に従事させられた宋将用さんは、このように証言しています。
 (忠清南道)論山から釜山まで列車で運ばれ、下関からはトラックや貨車で天理まで運ばれた。何百人かいた。村からは4人が連行された。山の下に寄宿舎があり、トンネルも掘った。「慰安所」には朝鮮人女性が何十人か連行されていた。
 他にも、慰安所の近くの川で女性が洗濯をしていて、その洗濯物を将校が軍刀で振り回していたという目撃証言や、慰安所に放置されていた女性たちを桜井市内の朝鮮人集住地域まで救出したという証言なども残っています。
奥に飯場として使われた建物が見える。このあたりに「慰安所」があったとも伝えられる。 この線路を歩いて飯場へ向かった。
 現地には、今も飯場に使われた建物が残っていました。子どもたちがノルティギ(シーソーのような遊び)で遊んでいたそうです。慰安所は確認されているだけで2か所ありましたが、そのうちのひとつが、この飯場の近くであったと伝えられています。
 現JR西日本桜井線「柳本」駅で列車から降り、線路伝いに歩いて飯場へ向かったと高野さんは説明していました、当日は大変寒い天候でしたが、当時の労働者らが暑さ寒さに耐えながら働いたと思うと、日の蔭りも手伝って感傷に浸ってしまいました。
 写真の飯場として使われた建物は、解放(日本の敗戦)直後、朝鮮へ帰る子どもたちのための国語(クゴ)講習所として使われた時期があったとのことです。駅前には朝鮮人総連盟柳本支部が置かれ、4・24阪神教育闘争時期、柳本支部からも多くの朝鮮人が支援に駆けつけたそうです。また民族学校が建設される現場にコメなどを送ったとも聞きました、物資の乏しい時期、農村にあった柳本支部は、コメを送ることで民族教育に貢献したようです。
 柳本飛行場跡地への今回のフィールドワークで多くのことを知りました。
 歴史に埋もれさせない努力をされている高野さんたちへの感謝の気持ちで、いっぱいになりました。

【参考文献】
『幻の天理「御座所」と柳本飛行場、朝鮮人強制連行・強制労働ガイドブック』
2003年4月30日初版
編者:高野眞幸
発行:奈良県での朝鮮人強制連行等に関わる資料を発掘する会
発売:株式会社 解放出版社