「戦争と女性の人権博物館」オープンを記念して

ハルモニの道こそ平和への道

 2012年5月5日、ソウル市麻浦区ソンミサンマウルに、日本軍「慰安婦」被害ハルモニたちの歴史を記憶し、次世代に教育するための「戦争と女性の人権博物館」がオープンしました。
 それは被害者ハルモニたちが「私たちのような被害者を二度と出さないために、博物館を建てて私たちのことを歴史に残してほしい」と希い、挺対協スタッフや建設委員会のみなさんと共に力をあわせてこられたご努力の結晶です。関西ネットもこれまで募金活動など、博物館建設運動を取り組んできました。
 完成の喜びをわかち合い、そして日本軍「慰安婦」問題解決のために、そして日本社会を変えるために、これから私たちが進むべき道筋をいま一度考えるための集会を持とう! そのような思いから6月10日「『戦争と女性の人権博物館』オープンを記念して『ハルモニの希望こそ平和への道』」を開催しました。ゲストは尹美香さんと、朝鮮史の研究者として知られ、朝鮮学校の支援にもご尽力されている藤永壯さんにお願いしました。また、「慰安婦」問題の解決を求める意見書採択に取り組んでいる「日本軍『慰安婦』問題を考える会・尼崎」と関西ネットの共催が実現し、参加者が170人を超え、大盛況でした。
 なによりもこの集会が感動的だったのは、わたしたちが取り組んでいる日本軍「慰安婦」問題と、今わたしたちの住んでいるこの地で現実に存在する朝鮮学校問題、在日朝鮮人への差別の問題を結びつけるものだったからです。
 日本軍「慰安婦」被害に今も苦しんでいるハルモニたちが、なぜ日本に住む子どもたちの境遇を憂い、心を痛めているのか――それがとても心に伝わる集会でした。吉元玉ハルモニのビデオレターの訴えには、涙を抑えることができませんでした。
 そうしてこれほどまでに日本政府は、大阪市政府政は、わたしたちの社会は、差別的でいられるのでしょうか? 年老いた「慰安婦」被害者と、朝鮮学校に通う子どもたちを苦しめても、どうして平然としていられるのでしょうか?!
 以下に集会の内容を報告します。
 (本集会の講演を多くの方に知っていただくため、パンフレットを作成しました。ぜひとも購入し、お読み下さい。購入案内はこのページの最後にあります。)

日本軍「慰安婦」問題解決のために、
戦時性暴力解決のための「戦争と女性の人権博物館」を建てる!

 講演:尹美香さん(韓国挺身隊問題対策協議会常任代表・戦争と女性の人権博物館館長)

 尹美香さんの冒頭の言葉は衝撃的でした。
 「『慰安婦』問題を通じて日本についての勉強を始め、そして日本に来て、韓国に暮らしているときには分からなかった分断の傷みというものが、日本の方に多く残っていることを知った。」
 もちろんそれは在日同胞への差別と分断のことであり、朝鮮学校に対する差別のことです。そして吉元玉ハルモニもビデオメッセージで、在日同胞の問題が解決されていないことに心を痛め、「朝鮮学校への差別のために若い者が歴史を学ぶことができない、歴史を学ばないとどうやって生きていくのか」と嘆いておられました。そしてこの日、尹美香さんは朝鮮学校への支援金を準備して来られていて、6月16日に発足予定の「大阪朝鮮学園支援府民基金」の第1号の支援者として贈呈なさいました。「傍観は最大の罪」というご指摘とともに、自分自身は何をすべきかと考えさせられた場面でした。
 画像を見ながら、開館までの過程とオープン行事を紹介されました。博物館は、平和・希望・癒しの空間。ハルモニたちの歩んでこられた道…沈黙を破り、平和をつくり、正義がまかり通るために努力してこられ、今も努力し続けている道をよく知るための場所であり、また、なぜ被害者が生まれ、日本政府がどんな罪を犯したのかをよく知るための場所であるということが実感できました。そして多くの人が喜びを共にした5月5日のオープン行事の映像はハルモニたちと子どもたちの笑顔でいっぱいでした。
 しかし日本の状況はひどいものです。7日には、駐韓日本大使館が韓国外交通商部アジア局長を訪ね、「なぜオープン式典に女性家族省長官が出席して祝辞を述べたのか。日本政府の見解とは異なる展示がされている」と抗議し、更なる罪を重ねました。それは戦後67年間継続して歴史のねつ造をおこなってきた日本の政治のあり方の問題であり、「慰安婦」問題、朝鮮学校問題、在日朝鮮人等への差別の問題も同様のシステムによるものです。「そのシステムに国民が操作を受け続けてきた。そのような日本の国が民主主義国家だと言えますか。本当に民主化が進んでいますか。国民に主権がありますか?!」―と尹美香さんは厳しく問いかけられました。
 そして最後に、「今の社会を変えることしか、私たちにできることはない、平和をつくる運動をすすめていきたい。ファイティン!頑張りましょう」と結ばれました。

「慰安婦」・朝鮮学校・植民地主義
―問題の解決を阻むものは何か―

講演:藤永壯さん(大阪産業大学)

 藤永さんは最初に尹美香さんの著書『20年間の水曜日』に触れ、被害者ハルモニの証言が多数収録されていることと、男性中心主義の歴史観について問題提起されている点が素晴らしいと語られました。
 「解決を阻むもの」とは植民地主義であり、植民地支配の中で生まれたさまざまな傷跡が今も影響を及ぼし次世代まで引き継がれている。とりわけ重大な問題は民族の文化的アイデンティティを損傷していることで、それを回復するための民族教育を支援することが今、日本において、植民地支配に対する責任を負うことであるはずなのに、それが非常に危うい状況である―と、今の日本の問題点の根本をとてもストレートに喝破しました。
 大阪はとくに深刻な状況として例に挙げ、これまでの過程と問題点や矛盾を鋭く指摘されました。また、国際人権法はマイノリティの教育として、民族教育の権利を保障していることや、6月5日付国連社会権規約委員会から日本政府に対する質問状の中で、国家がマイノリティの学校に対して行っている財政支援に関する詳細な情報の提供を求められていること等々、民族学校に対する差別的措置は、国際的にも見逃せないものとして議論され始めているとのことでした。朝鮮学校への差別待遇への根底には、マイノリティ教育に対する無理解や偏見があり、それは同化教育へとつながる。ジェンダーと植民地主義についても触れ、「慰安婦」問題のような悲劇を繰り返さないためにこのような運動をすすめてきたはずなのに、私たちは植民地主義の亡霊により、ふたたび過ちを繰り返そうとしている。民族教育の保障こそが植民地主義の克服であると結ばれました。


〈アピールと今後への行動提起〉

 「慰安婦」問題の解決を求める意見書採択に取り組んでいる日本軍「慰安婦」問題を考える会・尼崎の尹元寿さんより、意見書取り組み経過と、意見書を勝ち取るまで頑張っていきたいというアピールがありました。関西ネット共同代表の方清子からは、博物館は写真一枚残すことなく、名も残すことなく、忘れられた被害者の思いを受け止め悼む場所である。被害者の思いに応えるためには日本の政治を変えていくこと、尹美香さんと藤永さんのご提起を受けて、この日を機会に日本社会を変えていくために、バックラッシュを跳ね返すために、多くの市民が手を携えて立ち向かっていかなければならない。そこに希望が見えてくるという行動提起がありました。
 最後に集会アピールを採択し、それぞれが明日からの活動への元気を得て閉会しました。

 パンフレット購入のご案内
 この日の集会の模様を、1冊のパンフレットに収録しました。ぜひともご購入下さい。
  (←購入案内のサイトは、左画像をクリック)
橋下市長が登場して以降、教育問題、日の丸君が代の教育現場での強制や、人権博物館への攻撃など、歴史や人権、さらには人々の暮らしと生活が脅かされる政策が矢継ぎ早に出され、まさかと思っていたことが独断でどんどん決まっていくとう、あってはならない状況が生まれています。そんな中で、私たちは市民の目線で今の社会を捉え、問題を共有していく必要性を感じています。
 おふたりの報告で、過去の人権侵害と現代の人権侵害解決のために何ができるかが提案されました。希望を語る尹美香さんの言葉と、朝鮮学校の問題は日本のありかた、日本人としての自らの生を問うていると指摘する藤永壮さんのことばは、参加者の共感と感動を呼びました。新たな出会いがあり、出発点となった実り多い集会でした。
 参加されなかった方のために、そして参加された方にもう一度、感動を思い起こしていただくために、遅まきながらパンフレット制作にこぎつけました。」