挺対協共同代表 尹美香さんの報告と行動提起
韓国憲法裁判所決定後の韓国の動きと
私たちがしなければならないこと

私たちの問題解決に向けた行動のひとつひとつが
ハルモニたちに笑顔を与えることができる!

 2012年3月2日、11時半から約1時間、参議院議員会館会議室にて、韓国挺身隊問題対策協議会の尹美香(ユン・ミヒャン)代表をお迎えして院内集会が開催され、夜は水道橋の韓国YMCAにて同趣旨の市民集会が開催されました。「『平和の碑』の少女が問いかけるもの 韓国−日本軍『慰安婦』問題をめぐる現状」と題して、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動2010の主催、戦時性暴力問題連絡協議会の協力で行われました。

 折しもその前日、韓国は三・一独立運動記念日で、その中の演説で李明博大統領は日本軍「慰安婦」問題に言及しました。
 「日本軍『慰安婦』問題はさまざまな懸案の中でも、速やかに解決されなければならない」
 「(日韓)両国が、信のパートナーとして緊密に協力していくためには、歴史の真実から目を背けない真の勇気と知恵が必要」
 「『慰安婦』の方々が痛みを負ったまま亡くなれば、日本は問題を解決する機会を永遠に失うことになる」
 
 日本軍「慰安婦」問題の解決を望み取り組んでいる者にとって、李明博大統領の発言は至極当然です。しかしこれに対する日本政府の反応はよくありません。
 藤村官房長官は政府が元慰安婦への「償い金」を支払うための基金を設立したことなどを説明し、「今後も何ができるか知恵を絞り、検討を進める姿勢だ」と語りました。「償い金」を支払うための基金(女性のためのアジア平和国民基金)に対し、多くの被害者が「これは国家の謝罪と認められない」と受け取りを拒否し、「私たちは乞食ではない」と憤慨したのにもかかわらず、またしてもこの基金を言い訳として用いているのです。
 「『慰安婦』の方々が痛みを負ったまま亡くなれば、日本は問題を解決する機会を永遠に失うことになる」という、日本に対して真摯な問いかけに対する回答がこれでは、あまりにもひどすぎます。

 このような状況での翌日、尹美香さんを迎えての院内集会と市民集会は開催されたのです。
 この日のお話は、日本で、日本軍「慰安婦」問題の解決を求める人にとって、とても勇気と感動を与える内容でした。
 院内集会での尹美香発言の内容をここに掲載します。


《院内集会での光景。右が尹美香さん。左が通訳をしている全国行動2010共同代表の梁澄子さん。》

日本軍「慰安婦」問題を動かした韓国憲法裁判所の決定
 数日前に私はフランス人の記者に会いました。その方は私のことを「とても美しい」と言いました(笑)。「顔を見ていると平和な感じがする、穏やかだ」と言ってくれたんです。私は「最大のほめ言葉だ」とお返ししました。
 ここから皆さんの顔を見ますと、皆さんのお顔からも光が放たれているように見えます。こんなに大変な仕事を諦めずに、20年間以上、もしくは新たに始められた方々だから、こんなに光り輝いているのだと思います。

 最近韓国では連日のように、日本軍「慰安婦」問題が、メディアをにぎわせています。毎週水曜日の行われている水曜デモでは、青少年を中心に200人以上集まっています。海外からこの「慰安婦」問題を研究したいと言って訪れる人も、非常に増えています。挺対協が結成されて21年が経っていますが、未だに熱いテーマとしてこの問題がこのように扱われるのは、それだけこの問題が深刻であるということを証明していると思います。
 挺対協運動をして、私自身随分変わってきました。私自身の視野も随分拡がってきました。「慰安婦」問題を始めた頃には、戦争をなくして平和な世の中を作るために、女性の人権のためにと意気込んでいました。そして若い情熱で、国家や民主化のためにというふうに叫んでいた私が、今では謙虚な思いで、どうしたらこの苦痛と共にしていけるのかと考えられるようになりました。
 2011年を振り返ってみると、「慰安婦」問題だけではなく、日韓関係にとっても、とても意義深い年でした。20年間ハルモニたちは日本大使館前で、世界各地で訴え続けてきましたけれども、日本政府も韓国政府もこれまで、自分たちの聞きたい話だけを聞くという姿勢でした。ところが昨年1年は、韓国から始まったこの運動が世界的に広まって政治的なイシューになりましたし、大統領自身がこの問題に言及して、経済よりも先にまずこの問題を解決するべきだと発言しました。昨日はみなさまご存じのように、三・一独立運動93周年の日でした。この日は大統領が必ず記念の演説を行います。これまでも歴代大統領は歴史問題については必ず言及してきましたが、昨日の李明博大統領のように、直接「慰安婦」問題の解決を求めるということはこれまでなかったのではないでしょうか。李明博大統領がこれまでこの問題に言及しなかったのは、知らなかったからではありません。今回はどうしても言わなくてはならない状況にあるから、言及したのです。それを促したのが、昨年8月30日の憲法裁判所の判決でした。
 韓国政府が日本軍「慰安婦」問題解決のために積極的な外交措置をとらないことを違憲とする、韓国憲法裁判所の決定は、「慰安婦」問題が今後どのような波紋を起こし、日韓の間で焦点になっていくかということを予言していたと思います。
 そしてご存じのように、12月14日、水曜デモ1000回では、日本でも多くの連帯行動をとっていただきましたが、全世界44都市で「日本政府は『慰安婦』問題を解決しろ」という声が上がりました。韓国の集会には、与野党問わず多くの政治家達が大勢参加しました。また芸能人が「1000回もデモを行っているのに日本政府はどうしてこの問題を解決しないのか」と声を上げました。(この間の経過について詳細はこちらをご覧下さい。)
素早い韓国政府・国会の動き
 憲法裁判所の判決が出た後、最も速い動きを見せたのは、韓国政府自身でした。挺対協では韓国政府の動きをずっとモニタリングしてきました。最初に行ったのがタスクフォースチームを作るということでした。そして民間人を集めてタスクフォースチームに対する諮問団を作りました。この民間人による諮問団というのは、仲裁委員会に進むという可能性を予見して構成されています。
 韓国政府は9月15日と11月15日の2回にわたって、日本政府に対して2国間協議を申し入れています。そして外交通商部長官が自ら被害者に直接会いたいと申し出て、被害者との面談も実現しました。その被害者とも面談では、言うまでもなくハルモニたちから長官が怒られるという状況になりました。12月18日の日韓首脳会談では、李明博大統領が大変強い調子で「慰安婦」問題の解決を迫りました。そして昨日の三・一節での演説になるわけです。
 今申し上げたのは韓国政府の動きです。国会の方も速い動きを見せています。まず真っ先に与党セヌリ党(旧ハンナラ党)が党内にタスクフォースチームを作りました。鄭夢準(チョンモンジュン)議員が積極的になって作ったタスクフォースチームなのですが、1月31日にその第1回会議が開かれ、私もそこに参加しました。その時に鄭夢準議員はこのようなことを言いました。
 「憲法裁判所の決定は行政府にのみ責任を問うたのではなく、立法に対する責任追及でもあったのだ。なぜ国会が、そして政党が、『慰安婦』問題解決のためにこれまで動かなかったのか。タスクフォースを作るのが遅くなってしまい、被害者や国民に対して申し訳ない。そして4月の総選挙が終われば、国会の中に、日本軍『慰安婦』問題特別委員会を設置したい。」
 なぜセヌリ党の鄭夢準議員がこのように『慰安婦』問題に強い関心を持つのか、皆さん疑問に思うかもしれません。鄭夢準さんは90年代初めに日本人被害者として名乗り出た城田すず子さんの証言に触れて、その中の朝鮮人「慰安婦」に関する部分について、韓国国会で質問をしました。その後アサン財団という現代グループの彼の財団が、被害者うを金剛山観光に無料で招待してくれたり、95年以降は被害者がアサン財団の病院で無料で治療を受けられるような措置もとってくれました。ところが彼が与党保守系所属であるために、このことはあまり知られてきませんでした。
 また最も革新的な政党出る統合進歩党は今年の1月3日に、日本の各政党に対して「立法解決を図って欲しい、また法的な賠償をするように日本政府に働きかけて欲しい」という要請書を送りました。また2月27日にはセヌリ党が各政党に対して同様の要請書を渡しています。
日本政府のあまりにも不誠実な対応
 このように韓国では政府も国会も活発な動きを見せています。そして国際的に関心が高まっているにも関わらず、最もこの問題を深刻に受け止めなければならない日本の国会では、ほとんど議論がなされていないように見えます。韓国政府の2国間協議の提案に対しても、日本政府は全く応答していない状況です。
 2月13日には日本の大使館員が、私たちの事務所を訪れました。野田首相が「人道的な見地で知恵を絞りたいと言ったことに関しては日本政府として重く受け止めている」と言い、その上で「現政府の状態においては『女性のためのアジア平和国民基金』以上の措置を出すことは難しい」と言いました。また「もしもこれが仲裁委員会に回されたとしたら、被害者たちは自ら賠償請求権があるということから証明しなければならなくなるだろう。日本政府はこれまで何度も文書調査を行ってきたが、強制連行をしたという証拠は見つからなかった。民間業者を周旋人として利用したという文書は見つかった」と。つまり国の違法行為はなかった。したがって被害者たちに賠償の権利はない、そのことが仲裁委員会で明らかになると――そう言いたいのだろうと思いました。
 私は言いました。「あなたが言っていることは安倍元首相が言ったことと全く同じだ」と。
 そして2月29日、(国民基金の活動を推進してきた)臼杵敬子さんと一緒に被害者数人がソウルの日本大使館で会っています。私の知るところでは臼杵敬子さんは国民基金の後続措置の財団で活動し、1年に何度か訪韓し、そして数人のハルモニと一緒に食事をしたりしています。そしてその事がILOの日本政府の報告書に書かれているんです。日本政府としては国民基金で措置行い、今後も後続措置を行う財団を作って、ハルモニたちの治癒をする活動、訪問活動などを行っていると言いたいのです。この29日の会合でどのようなことが話されたのか。私は日本大使館側から話は聞けていませんが、そこに参加した被害者からの話によると、日本政府がお金をあげれば受け取るかと……そう質問されたそうです。これが日本の一つの断面です。(詳細はこちらをご覧下さい。)
右傾化する日本メディアに立ち向かうには
 みなさんWILLという雑誌をご存じですか。
 この雑誌の表紙にはこう書かれています。「売春婦を『国家英雄』にする韓国」。これを書いたのは産経新聞の黒田支局長です。この中味を見ますと、日本軍「慰安婦」被害者に対して韓国政府が保護をするということ、また社会が被害者たちを非常に尊重してすごい存在のように扱うのがすごくおかしい、変な社会だというようかことが書かれていました。私ははこれを読んで、韓国をすごく褒めていると感じ、笑ってしまいました。性暴力の被害者に対して売春婦というふうに呼び、また国民として扱うのではなく、彼女たちが外に出ないように、後ろに下がっていてこそ、彼女たちをクローズアップさせないことこそが正常な国家のあり方だというふうなことを平気で雑誌に書く、この日本の断面を目の当たりにして、私は韓国の女性としてではなく一人の女性として、本当に憤りを感じました。これに対しては強い提訴を行うことを決めています。アジアの女性被害者たちが全員で連帯して行動してもいいのではないかと思っています。
 日本の右翼のこういった発言に対して、単に感覚的感性的にだけ受け取っていたら、それはもうはびこっていくだけだろうと思っています。韓国の場合は権力よりのメディアに対して、市民団体は非常に敏感に反応します。挺対協も同様です。最近インターネット上で「慰安婦」被害者を売春婦呼ばわりしたユーザーを告訴したこともあります。そのような大衆媒体の中で私たちの声を反映させていくことも私たちの役割だと思っています。ところが日本では良心的な声が大衆媒体で扱われることがあまりないので、私たちの声が拡がっていかないではないですか。皆さんはSNSをどれくらい活用していますか? 韓国ではSNSを通して権力に対する批判、メディアの間違いを正す活動、これを活発に行っています。
被害者の名誉を回復するために
 そこそろ時間もないので、残された課題についてお話ししたいと思います。
 先ほど政府内のタスクフォースと諮問団についてお話ししました。仲裁委員会に行くことを念頭に置いて諮問団を人選したと申し上げました。2月15日、外交通商部の前で挺対協関係団体と共に記者会見を行いました。外交通商部に対して、日韓基本請求権協定第3条に基づき、早く仲裁手続きに入れと。2国間協議を日本政府が拒否している中で、これ以上法的責任の究明が遅れてはならない、時間がないのだということを、非常に強く要望しました。しかしこの仲裁に対し、日本政府が拒否することは可能だろうと思います。また仲裁委員会に進んだ場合には、これは日韓の問題に留まらず、国際的な裁判の様相を呈するのではないかと思います。日本の官僚の中には、仲裁委員会に持ち込むならば日本が必ず勝つといっている人もいると聞きました。しかし国際的には、「慰安婦」問題が日韓請求権協定の中に含まれていないし解決されていないと国連の勧告でも言われていますし、このような重大事件の被害者の請求権を消滅させることはできないというのは、明らかな事実です。また韓国政府が日韓関連文書を全面的に公開しながら自信を持って発表したことが、この日本軍「慰安婦」被害者の法的な権利が残っている、「慰安婦」問題に関しては請求権協定の過程で言及されていないということでした。ところが日本政府は未だに日韓関連文書を公開していないではないですか。

 ところが問題は、こんなことをしていたら解決は何時になるのか分からないということです。日本でも「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動2010」という団体が作られて、日本全国で、韓国でも国際的にも、日本は立法解決する努力をせよという声が高まりました。国家の責任を日本がキチンと認め、公式に謝罪し、そのことを国民に対してキチンと知らせて、アジアに対しても公布して、国際社会に対してもキチンと知らせる。その上で、法的な賠償をキチンと行うことが、被害者の名誉を回復することになります。またそれは日本国民の名誉を回復することにもなりますし、日本の右翼に対して教訓を与えることにもなります。ほかのアジアの被害者も同じだと思いますが、昨年の韓国憲法裁判所の決定の後、6人もの被害者が亡くなられました。
 ハルモニたちは韓国政府が変わっている様子を見て、また社会が自分たちを視点してくれていると感じながら、そして1000回水曜デモでも国際的な支援が向けられていると知って、非常に慰めを受けていると思います。金福童ハルモニの言葉を引用して言うならば、「胸の中の重い塊がすうっと溶けていく感じがする」と。いままでキチンとした国民として一度も扱われたことがなかったのに、このように国民として外向的な保護を受けている――そういうことから少しずつ自分たちの名誉が回復されているという実感を得ているのだということを感じます。
 このようなハルモニたちが来たる3月8日、特別な記者会見を行います。日本政府から賠償を勝ちとることができたら、そのお金を全額コンゴの、性暴力被害者たちへ寄付する予定です。コンゴでレベッカ・マシカという女性がいます。彼女は自分自身が被害者でありながら、被害者たちを集めて支援活動を行っています。ハルモニたちは彼女の活動を応援したいと言っています。このようにハルモニたちの視野は広まり、変わっていっているのです。(詳細はこちらをご覧下さい。)
 私たちは日本政府の動きばかり見ていると、暗い気持ちになります。でも運動というものは生涯やっていくものなのですから、最後まで諦めずに、疲れることなく、この社会を変えるために、また国会や政府を変えるために一緒に声を上げていってくださるようお願いいたします。
 そういった過程の一つ一つの瞬間がハルモニたちに笑顔を与えることができることなんだとお分かりになれば、皆さんもおそらく笑いながら、辛い環境の中でも一つ一つ小さな変化を起こしていくことができると思います。
 がんばりましょう!