日本軍「慰安婦」被害者
金学順さん証言から20
『20年間の水曜日』日本語版出版を記念して

張智恵さんのサルプリ舞
 今年は金学順さんが日本軍「慰安婦」被害者として、初めて証言されてから20年を迎えます。
 金学順さんに続いて、韓国で、フィリピンで、中国で、アジア各地で被害者が50年に及ぶ沈黙を破り、正義を求めて立ち上がりました。しかし、金学順さんを含め、多くの被害者がこの20年の間に、解決の日を見ることなく亡くなられました。
 私たちはこの20年間の運動を振り返り、被害者の死を悼み、解決のためにあらたな一歩を踏み出す契機として関西で集会を持ちました。何より若い人たちへ、この事実をどう伝えていくのかが大きな課題であり、集会実行委員会には学生たちも参加し、ともに集会を準備しました。また、私たちは昨年暮れに韓国で出版された、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)尹美香さんの著書『20年間の水曜日〜日本軍「慰安婦」ハルモニが叫ぶゆるぎない希望』が話題になっていることを知り、この本の日本語版出版を準備、集会にあわせて韓国から尹美香さんをお招きしました。

 準備の過程で、予期せぬ出来事が起こりました。私たちが予定していた7月31日、会場である大阪歴史博物館講堂の向かい側研修室を「在日特権を許さない市民の会」がとっていたことがわかりました。妨害目的は明らかであり、参加者に害が及ばないよう、最大限の努力を重ねながら当日を迎えました。幸い、当日は多くの方の支援に支えられて、隙のない完璧な警備と案内ができ、会場は人が溢れる熱気のなか、集会が始まりました。

 集会の冒頭、静寂の中、亡くなられた各国被害者の方々の映像が流されました。無念の思いで亡くなられたであろう被害者に対して黙とうが行われました。さらに、実行委が編集した金学順さんの証言映像が上映されました。「悔しくて胸が張り裂けそうだ!」と泣き叫ぶ金学順さんの声が今も胸に突き刺さります。続いて、張智恵さんによる「サルプリ舞」では、被害者の苦悩と深い苦しみが白い布を使った舞いで表現されました。

『20年間の水曜日』を手にする尹美香さん
 講演に立った挺対協代表の尹美香さんは「20年の歴史は希望の歴史」というメッセージを力強く発信しました。92年から始まったソウル日本大使館前水曜デモは、ハルモニたちを人権活動家、平和運動家に変え、私たちを励まし、人々の意識を変えました。もっと多くの人たちと手をつなぎたい、それがこの本が出版されたゆえんです。12月の1000回水曜デモに向けてハルモニたちが毎週通い続けた場所に記念碑を建てる計画など、解決に向けた行動が紹介されました。
 パネルディスカッションでは女性史研究者の藤目ゆきさんと、在日朝鮮人「慰安婦」被害者・宋神道さんの裁判支援を中心に活動を続けてこられた梁澄子さんが発言しました。梁澄子さんからは、これまで支援者として、通訳者として被害者に寄り添う中で感じた哀しみや痛み、変化について語られました。


 「被害者の証言が食い違うことがある。それを矛盾だとして追及される。しかしそうではない。彼女らの心の傷が余りにも深く、大勢の前で自分の被害をありのままに話せなくなってしまうということがわかった。そういう心に寄り添ってきた20年間だった。
 謝罪と賠償という点では達成できていない。しかし何も残せなかったということではない。まず、「慰安婦」問題がなにであるか、事実を明らかにした。日本の運動は、被害者の話に真剣に耳を傾けてきた。彼女らにとっては、自分たちの証言が聴くに値するものだ、という確信をもっていった。それが彼女らの名誉回復につながっていった。彼女らも変わっていったが、私達自身も変わっていった、彼女らは日本の人々の意識を変えていった。彼女らは人権活動家だ。」

 証言の内容をめぐって、被害者が再び傷つけられ、心を閉ざすこともあったという話に、その理不尽さに怒りを抑えることができませんでした。痛みを理解しようとする人々の一方で、それを否定し、踏みつけようとする日本社会の持つ闇、20年間私たちが闘ってきた元凶ともいえるのではないでしょうか。
 藤目さんは日本人被害者が名のり出られない日本社会のありように疑問を投げかける一方、教員として、若い世代にどれほど、歴史を学ぶことの意味を伝えられているのか、自らに問いました。


 「日本人の『慰安婦』被害者が名乗りでていない。それはいなかったというのではなく、名乗り出ることを日本社会が許さないからだ。日本にはそのような公娼制度に対する許容がある。それが右翼の妄言をも助長させている。韓国は祖母の代の体験を孫にまで受け継いでいくということがあるが、日本では、天皇制のもとで、女性達がどんなに卑しい地位におとしめられ、差別されてきたのかということを伝承していくという文化が育っていない。それが大きな問題の一つだ。
 今後一層事実を継承し若い世代に教えるという活動が必要となる。」


 お二人の話は参加者の共感を呼び起こすと同時に、だからこそ、「慰安婦」問題を解決できないのは、私たちが生きるこの社会に問題があることを示してくれたといえます。今年の中学校教科書検定結果にみられるように、過去の歴史と向き合うことなく、戦争を賛美し、次の戦争に向けて準備するかのような教育・社会のありように、慄然とさせられます。耳に心地よい言葉ではなく、被害者の言葉を心に受けとめ、人とつながりその暖かさを感じ取れることの大切さを学ぶことが明日への力になります。20年間に学んだことをしっかり胸に刻み、ここからまた歩みはじめることを一人ひとりに感じとっていただけたのではないでしょうか。
 多くの人の賛同、支持、応援に心より感謝し、繋いだこの手を離さずに、これからもともに歩んでいきたいと思います。
 ありがとうございました。

パネラーの皆さま。中央で喋っておられるのが梁澄子さん。右手が藤目ゆきさん。

日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク ニュースレター第2号より転載

【『20年間の水曜日―日本軍「慰安婦」ハルモニが叫ぶゆるぎない希望―』】
 尹美香さんが20年間の運動を青少年向けに本にして出版しました。日本語翻訳は「戦争と女性人権博物館日本建設委員会」代表の梁澄子。価格は1,500円。この売上は『戦争と女性の人権博物館』の建設募金にします。
 <『20年間の水曜日』購入案内はこちら>